忘れても、ちゃんとあったこと
エツコさんはもと小学校の先生。定年退職後は交通安全のボランティアをしていたこともある。
だけど近ごろは、道にまよったり、お店でお金のはらい方が分からなくなったり、困ることが増えてきた。もと教え子のおじさんは“エツコ先生”と呼び、さりげなくサポートする。
先生だったころにもどって小学生に優しく算数を教えてくれたり、むすめをむかえに行く、と言って急に出かけようとしたり、エツコさんから見える景色と時間の感覚は、家族やまわりの人をとまどわせることもある。
近所の小学生たちは、そんなエツコさんに関わるうちに、自分たちの悩みも整理されていく。
エツコさんがこれまで生きてきた中で見たり、聞いたり、感じたりしてきたことは無くなってしまうわけではない。これからも積み重なっていく。
2023年6月2日(川崎美恵子)